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ねことヘアピン

唯梓SS中心に自由気ままに綴るブログです。

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【はつちゅー!@前編1】

【はつちゅー!@前編】





一ヶ月前。
私、平沢唯は後輩の中野梓ちゃんに決死の思いで愛の告白をし、晴れて私達は恋人同士となった。



しかし、未だに何も進展がない。



付き合い始めの頃は、お互い相手の事を意識して、とても初々しかった。

私は梓ちゃんに、『唯先輩…』と頬を赤らめながら名前を呼ばれるだけで、バックンバックンと胸の動悸が激しく鳴り、喉から心臓が飛び出るかと思ったぐらいだ。
いや、今でもそうなんだけどね。

梓ちゃんも私と目が合うだけで、顔を真っ赤にさせちゃってものすごく可愛かったのに、二週間ぐらい経つと慣れてしまったのか、ケロッとまた付き合う前の梓ちゃんに戻ってしまった。


たまーに帰り際、2人きりの時に少し良い雰囲気になったと思ったら、梓ちゃんは一言挨拶をして早足で帰ってしまうし。
その際に一度強引にキスをしようと試みたら、思いっきり頬にビンタを食らってしまった。


次の日に謝ってはくれたんだけど、私の心はズタズタに傷付いてしまっていて修復不可能だ。
せめてこの腫れてヒリヒリするほっぺにキスをくれれば良いものを…。

私の心の傷を癒すには、“梓ちゃんのキス”しか治療法はないのだ。



そして今日。
梓ちゃんは私の家に遊びに来る事になっている。
まぁギターの練習でなんだけど。

憂は、『早朝から友達と遊びに行くから夕ご飯頃まで帰ってこない』って言ってたから、久しぶりに梓ちゃんと2人きり。
今日やらずにいつやるのだ!ってぐらいの絶好のチャンス!


今日こそ頑張って…良いムードを作って…梓ちゃんと…梓ちゃんの唇にキスを……




「でへへへ…っふぁ!」




梓ちゃんとのロマンチックなキスを妄想していた私は、口から垂れ落ちそうになっていた涎を慌ててちゅるっと吸い上げる。




「うーん…少し早く起きすぎちゃったかなぁ~」




ベッドでゴロゴロしながら時計を見ると、10時15分。
梓ちゃんが家に来るのはお昼過ぎだから、まだ結構時間がある。

憂が作り置きしてくれたお昼ご飯は、さっき起きた時にお腹が空いていたから直ぐ食べちゃったし…。
う~んお腹がいっぱいでなんだか眠ってしまいそう…。



「あずにゃ~ん…ちゅ~うちゅ~ちゅ~…ふにゃ…」



私は抱き枕にちゅーちゅーと唇を押し付けながら、気持ちよく二度寝をしてしまった。












私の可愛い彼女は怒っている。

それはもうツインテールの髪の毛が逆立ちしそうなぐらい。


腕を組んで私の事をジトーっと睨む梓ちゃん。
そんな彼女の前で私は正座をしている。



何故こんなに彼女は怒っているのか?



時間は約30分前に遡る。




*




約束の時間に平沢家にやって来た梓ちゃん。
とりあえず玄関のチャイムを押す。



…出ない。



もう一度押してみる。



…出ない。



彼女は疑問に思いつつ何度もチャイムを押す。…が、出ない。



何故ならその頃、私は夢の中の梓ちゃんと甘いちゅっちゅタイムを満喫している最中だった。
私が寝ていたがために、梓ちゃんは家に入れず、玄関で30分ぐらい立って待つ羽目になってしまったのだ。









「何度も何度も携帯にも電話したのに…」



梓ちゃんはぷんぷんとお怒りのご様子…。
着信音で飛び起きて、寝癖がぴょんぴょんのまま慌てて玄関に出たものだから、言い訳の仕様もない。



「はい…すみませんでした…」



私はへこへこと頭を下げて謝る。



腰に手を当ててガミガミと愚痴る彼女と、怒られて小さくなっている私。

これじゃどっちが先輩か後輩か分からない。




「はぁ…もういいですよ。冷たい飲み物貰えますか?」



梓ちゃんはため息をつき、顔をぱたぱたと手で扇いだ。
彼女の額には少し汗の玉が浮かんでいる。
いくら涼しい5月とはいえ、外にずっと立っていたのだから暑かったのだろう。



「う、うん今直ぐ持ってくる!リビングでくつろいでて!」




私は梓ちゃんのご機嫌を取り戻すために、早急にキンキンに冷えた飲み物を作るのだった。










(疲れだ……)



そろそろ梅雨の季節なのにも関わらず、今日はカラッカラのお天気日和。
お出かけしたら間違いなく気持ちよさそうな中、私達は家の中で2時間ぐらいぶっ続けでギターの練習をしていた。


(あぁ…太陽の日差しが気持ちいいよぅ)


私はギー太を膝の上に乗せ足を伸ばし、窓の近くで日向ぼっこをする。
チラッと梓ちゃんを見ると、楽譜とにらめっこをしていて、まだまだ練習を止める気はなさそう。
このままじゃ練習だけで一日が終わってしまう。


(そんな事はさせない!)



私は考えていた作戦を実行する。



「あずにゃん。気分転換にゲームでもしない?」



「え?うーん…そうですね…。キリも良いですし、少し休憩しましょうか」



梓ちゃんは少し考えそう言うと、楽譜から目を離して綺麗に整頓し始めた。



「やったぁ!Wiiやろう?ウィー!ソフトはこれね!」



私はギー太をスタンドに立てかけた後、彼女の気分が変わらないうちにテレビを付けてWiiの電源を入れる。
Wiiが起動し、テレビ画面にソフトのタイトルが流れた。



「ちょ、もうやるって決まってるんですか…あ、『Wiisports』!これ一度やってみたかったんです!」



梓ちゃんはフェンダー・ムスタングことむったんをギターケースに入れ、テレビの近くに寄ってきた。




(…と言うことはこのゲーム一度もやった事ないのか…)



私は心の中でシメシメと思いながらコントローラーを梓ちゃんに渡す。



「はい、手首にしっかりストラップ付けてね!」



梓ちゃんは手首にストラップを付け、コントローラーを宙にぷらぷらとさせている。
握り方から知らないみたいだ。



「これはこう握るんだよ♪んーと…とりあえず操作に慣れよっか!テニスでいいよね?」



私はコントローラーを握って見せ、慣れた手付きで操作しテニスを選ぶ。
簡単に操作方法を教えてあげて、まず始めにトレーニングモードをする。



「す、すごい…本当に自分で打ってるみたいですね!」



何度かやると、梓ちゃんは大分操作に慣れたみたいで、楽しそうにコントローラーをブンブンと振っている。




「あずにゃん上手上手♪じゃあそろそろ試合しよっかっ」




私は一番長い3ゲームのセットを選び、試合開始を押した。



ゲームロード中.....



(言うなら今かな…)



「あ!ねぇねぇ、負けた方が勝った方の言う事を一つ聞くってルールはどう?手加減するからさぁ~」




私はずっと言いたかった事を彼女に持ちかける。




「何ですかそれ…。…まぁ勝負には賭け事がつきものですものね。手加減なんていりませんよ!やってやるです!」



(掛かった!)



私は心のなかで『俺様がこんな餌n…釣られたクマー!』を想像する。
梓ちゃんは負けず嫌いだから、こう言えば乗ってくるのは分かっていたのだ。


この勝負、絶対負けるわけにはいけない!
悪いけど手加減なしでいかせてもらうよ!





【はつちゅー! @前編2】に続きます

| 【はつちゅー!】 | 23:27 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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【痣 @前編】

R-18な内容です。18歳未満の方は閲覧しないで下さい。
それ以外の方は、少し長めなので時間がある時にどうぞ。


【痣】





今日も私こと平沢唯は、軽音部で1年後輩の中野梓ちゃんに日頃の日課になっているちょっかいを出していた。




「あーずにゃーん!!猫耳つけて~?」




私は背後から梓ちゃんに近付き、黒くて耳の部分に白いモフモフの付いている猫耳を、梓ちゃんの頭に付けようと試みる。




「!?」



梓ちゃんは野生の感で危険を察知したのか、とっさに頭を「ブンブンブン!」と振り出した。
梓ちゃんが頭を振るたびに、彼女のツインテールの長い髪が、私にビシッビシッと攻撃をする。



「いたっ!いたっ!あずにゃん痛いよ!」




「じゃあ先輩もそれやめて下さい!」




「う~…分かったよぅ~…」




こうなった梓ちゃんは、絶対一歩も引かないのを私は知っている。
私はしぶしぶ手に持っていた猫耳をテーブルの上に置いた。
そんな私を見て梓ちゃんは満足したのか、頭を振るのを止めて、振ったせいで少し乱れてしまった髪を整え始めた。




(ちぇー…今日も駄目だった)




私は髪を整える梓ちゃんを横目で見ながら落胆する。
実はここ最近、ずっとこんな感じなのだ。
ふざけてちょっかい掛けると嫌がって攻撃するし、ギュッと抱きしめると一瞬だけ大人しくなるけど、すぐに胸の中で暴れ始める。




「ははっ!なんだ~梓、飼い主離れか~?」




私達の事を見ていた律っちゃんが、からかうように梓ちゃんに話しかけた。




「なっ!な、なんですか飼い主って!そんなんじゃありません!」




ニヤニヤとしている律っちゃんに、梓ちゃんはプイッと顔を背けながら早口でそう答えた。でも梓ちゃんは耳まで真っ赤になっている。





「まぁまぁ、そろそろティータイムでもしましょ?梓ちゃんも動いて疲れたでしょう?」





そんな私達を見かねたムギちゃんが、ニッコリと微笑みながら梓ちゃんに話しかけた。




「…そうですね。ムギ先輩、私ミルクティーが良いです」




梓ちゃんはムギちゃんに紅茶を頼むと、自分の椅子に着いた。
ムギちゃんのお陰で梓ちゃんは少し落ち着いたようだ。




「おぉ!ムギー!!今日のお菓子は何だ~!!!」




ティータイムと聞いた律っちゃんが、途端に騒ぎ始める。




「お前の頭はそれだけか」




すかさず澪ちゃんが、そんな律っちゃんに呆れた顔で突っ込んだ。




「なんだよーじゃあ澪はお菓子いらないのか~?」




「えっ!いや、そんな事言ってないだろ!」




ギャイギャイと2人の痴話喧嘩が始まった。
この2人はなんだかんだとても仲が良い。やっぱ幼なじみだからかな?


ムギちゃんはそんな2人を眺め、フフッと笑うと紅茶の準備に取り掛かり始めた。



「あ、ムギ先輩。私も手伝います」



そう言いながら梓ちゃんは椅子から立ち上がると、ムギちゃんの側へ駆け寄った。


ムギちゃんは「ありがと」と声を掛け、梓ちゃんは「ティーカップを出してきますね」と言い棚へ向かう。




ムギちゃんはお湯の用意。
梓ちゃんは棚からティーカップを取り出している。
澪ちゃんと律っちゃんはまだうんぬんかんぬん言い合っている。





そんな中、私は梓ちゃんの背中をずっと見つめていた。














「おねーちゃーん!お風呂沸いたよ~?」





「あーい」





私は読んでいた漫画をぽいっとベッドに投げ、階段を下り、洗面所へ向かう。

髪のヘアピンを取り、部屋着を洗濯機に投げながら脱いでいたら、憂が洗面所に入ってきた。



「お姉ちゃん着替え忘れてるよ~…って…あれ?背中に痣できてるよ?」



パジャマを持ってきてくれた憂は、少し驚いた顔をして私の背中を覗き込む。



「えっ?どこ~?」




「ここだよ。背中に痣なんてどうしたの?」



憂は私の背中の腰より少し高い位置を指で指し、心配そうな顔をして聞いてくる。
私は洗面台の鏡でその場所を確認をしようと思い、鏡の前に背を向けて立つ。
憂の言う通り、私の背中にはうっすらと痣が出来ていた。



ここは確か――



(確か…昨日梓ちゃんに叩かれたとこだ)



昨日抱きついた時に、梓ちゃんが嫌がって背中を強めに叩いたのを私は思い出す。
(少し背中が痛いな)とは思っていたけど、まさか痣が出来ているとは思わなかった。



(…これは躾が必要だね)



「憂」



私は明日の事を考えながら、さっきからモジモジしている憂を呼ぶ。




「えっ!なに?も、もしかして一緒におふるぉ」



「私明日ちょっと帰り遅くなるから」



「え…あ…うん…。夕飯残しとくね…」



興奮したかと思ったらすぐに悲しい顔をして、憂は洗面所から出て行ってしまった。




(憂少し泣いている様に見えたけど…花粉症かな?)




*


私はいつもより長めにお風呂に浸かる。


明日の“計画”をじっくりと練るために―――









次の日の放課後。

私は部活が始まる前に、今はもう使われていない旧化学準備室に梓ちゃんをメールで呼び出した。

どうやって教室のカギを手に入れたかって?
そこはさわちゃんにうんぬんかんぬん嘘を言って、無理やり入手した。


私はカギを使って教室の中へ入る。
ずっと使われてなかったからか、部屋の中の空気が少し悪い。
埃の被っている窓を開けて換気をし、梓ちゃんが来るまで私は椅子に座って待つ事にした。



――そして、ドアが開いた。



ガラッ



「…唯先輩~居ますか~?…あ、先輩!こんなとこに呼び出して、一体何なんですか?」




ドアから顔を出してキョロキョロとし、私が居ると分かった途端、少し怒った口調になる梓ちゃん。
私はそんな彼女に返事をせず、黙って俯く。



「唯先輩?」




何も喋らないで俯いている私に疑問に思ったのか、梓ちゃんはこっちに近付いて来た。
私はすかさず立ち上がり、梓ちゃんの背後に回り、ドアのカギを掛ける。




「えっ」



私の急な行動に梓ちゃんは驚いた顔をしている。
私がドアを背にして立っているため、梓ちゃんはもう逃げられない。



「先輩…?」



訝しげな顔をしている彼女を無視して、私は自分のブラウスのボタンを外し始める。



「な、なに脱いでるですか!?」



いきなり服を脱ぎ出した私に、梓ちゃんは顔を真っ赤にさせ、焦りながら声を荒らげた。




「あずにゃん。この痣、何かわかる?」




私はブラウスを脱ぎ、梓ちゃんに痣が見えるように背中を向ける。




「…あっ」



どうやら梓ちゃんはこの痣が自分が付けた事に気付いたようだ。




「あずにゃんが私の事叩いて付けたんだよ?」




「す、すみません…」



梓ちゃんは申し訳無さそうな顔で私に謝ってきた。
でも私が望んでいるのはそんな事じゃない。




「謝らなくていいから。舐めて?」




「え…あ…。そ、そろそろ部活行かないと…」



身の危険を感じたのか、梓ちゃんはこの教室から出ようと足を踏み出す。
梓ちゃんの声は震えていた。




「聞こえなかった?早く舐めて」




私は逃げようとする梓ちゃんに低い声で命令をする。
すると梓ちゃんは、ビクっと身体を強ばらせて、教室を出ようと踏み出していた足を固まらせた。




「ぁ…ぅ…」




梓ちゃんは足をガクガクと震わせながら私に近付き、背中の前で跪く。
そして私の腰に手を当て、小さな赤い舌をそろそろと口から出し痣を舐め始めた。



「ぺろっ…ぺろっ…」



梅雨の時期、この使われていない埃っぽい教室は、気温も湿度も高くジメジメとしているので、私の背中は少し汗ばんでいた。




「ぺろぺろ…ぺろっぺろっ」



でも梓ちゃんは、背中を伝う私の汗に気にする事なく、美味しそうに舌を這わせて舐めている。




「ぺろ…ぺろっ…ちゅ…ちゅっちゅっ…」




すると梓ちゃんは舐めるだけじゃなく、唇を押し付けて痣にキスをし始めた。




「あずにゃん、私の汗美味しい?」




「ちゅ…ちゅっ…ふぅ、ふぅ…ぺろぺろ…」




私の声に答えるかのように、梓ちゃんの手がお腹の辺りにまで伸びてきて、さわさわと撫でてくる。





「触って良いなんて言ってないよ?ほら、戻して?」




「ぁぅ…」




私のお腹を撫でている梓ちゃんの腕を引き離して、元の位置に戻させる。
名残惜しそうに梓ちゃんの手は私の腰を掴み直した。




「舌が止まっているよ?もっと舐めて」




「…ぺろ…ぺろぺろ…ぺろ、ぺろ、ぺろ…ちゅるっ」




私は梓ちゃんにもう少し痣を舐めさせ続ける事にした。





【痣 @後編】に続きます。

| 【痣】 | 02:34 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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【いつもと違うあなた @前編】

少し長めなので、お時間がある時にどうぞ。

唯梓SS


【いつもと違うあなた】



「うはぁ~ムギちゃんのお菓子はおいしいねぇ♪」



そう言うと唯先輩は幸せそうなため息を出した。
先輩は、目を瞑って頬が落ちるとでも言うように頬に両手を当てている。
口は半開きで少しヨダレが垂れていた。
その顔を漫画に例えると、目は(=)で口は(q)である。全体図で(=q=)←こんな感じだ。



(すごいだらけた顔…)




私は、そんなだらしない顔をしている唯先輩をじとーっと呆れながら見つめ、自分の目の前に置いてあるお菓子に視線を戻す。




確かにムギ先輩の持ってくるお菓子はおいしい。
今日はお菓子はシンプルな「苺のショートケーキ」だ。
苺の甘酸っぱい酸味が、甘すぎない生クリームをうまく惹きたてている。上品な大人の味だ。
スポンジもふわふわで、間に挟まれている苺と一緒に口の中に入れると、ほろっと舌の上で溶けてしまう。
私も食べた瞬間思わず「おいしいっ!」と叫びそうになったものだから、唯先輩がこんなになるのも無理はないだろう。




「ふふふっ、喜んでもらえて嬉しいわ♪」




ティーポットにお湯を注ぎながらムギ先輩は微笑む。




「ほんと美味しいな。これ!」




律先輩も目を輝かせながらケーキを食べる事に奮闘している。
そんな中、澪先輩は紅茶を飲みながら静かに音楽雑誌を読んでいるみたいだった。



「おいし~おいし~!もぐもぐもっぐ…ごふっ!」



咽た声に、皆一斉に唯先輩の方を見る。
先輩は喉を押さえて、苦しそうに胸をトントン叩いている。ケーキを喉に詰まらせたのだろう。



「唯ちゃん大丈夫!?」



すかさずムギ先輩が唯先輩に水を差し出す。



「ごくっごくっごっ………ぷはぁ~苦しかったぁ~。ありがとームギちゃん♪」



唯先輩は受け取った水を一気飲みすると落ち着いたみたいで、ニッコリとムギ先輩にお礼を言う。




「どういたしまして♪紅茶のおかわりもあるから沢山飲んでね?」



「わあーい!おかわりー!」



「ずるいぞ唯!私もおかわりー!」



いきなり唯先輩と律先輩の変な競いが始まった。
2人して紅茶をガブ飲みし、どちらが早く飲めるか競争している。
ムギ先輩はそんな2人をニコニコしながら眺めていて、澪先輩は何事もなかったようにまた雑誌を読み始めた。



(はぁ…幼稚すぎる)



私はそんな先輩達を呆れた目で見てしまう。
唯先輩も澪先輩ぐらい大人になって欲しいものだ。



「梓ちゃんも、おかわりいかが?」



先輩達の競争を冷ややかな目で見ていたら、ムギ先輩がティーポットを持ちながら私に話しかけてきた。



「あ…はい、いただきます」



私はカップの中に少し残っていた紅茶をこくっと飲み干し、ムギ先輩にカップを渡す。
底の方に残っていた紅茶は、沈んだ砂糖により粘ついていたみたいで、舌に纏わり付いてきた。
私は舌の粘つきに少し不快感を感じていると、騒がしかった声が消えている事に気付く。
どうやら先輩達は競争に飽きたみたいで、まただらーんとお菓子を食べていた。


「むふふ~っ」


唯先輩は口の周りにいっぱいクリームがつけながら変な声を出している。



「……はぁ…」




そんな先輩を見て、私は今日何度目かわからないため息を付いた。










次の日!
私は急いでいた。


「はっ、はっ、はっ」


髪が乱れるのも気にせず、私は全速力で走る。
今日に限って目覚ましが鳴らなくて寝坊してしまったのだ。



(なんっ、で、ならっ、なか、った、、、のーーー!?)



今更目覚まし時計を恨んでも仕方ない。
遅刻なんてしてしまったら、優等生で通っている私のプライドが傷つく。
そんな失態は断固阻止しなくてはならない。絶対にだ。
私は携帯で時間をこまめに確認しながら、前をあまり見ずに走っていた。




「きゃっ!…!ッ!」



視界も定まらないまま走っていたがために、足に何かが突っかかる。
私は地球の重力に逆らうことが出来ず、体が前のめりに倒れていくのがはっきりと頭の中で理解できた。
いくら頭で理解出来ていても、もうどうしようもない。
私は次に来るであろう衝撃に備えるため、目をギュッと瞑る――――




(………)




いくら待っても想像していた痛みがこない。それどころか気持ちよくて良い匂いがする。
おかしいと思い目を開けると、私の体は誰かの体にすっぽりと抱き抱えられていた。



「大丈夫?あずにゃん」




「……えっ……唯、先輩?」




そのほんわかした声から、その誰かが唯先輩だと私は気づく。




(転びそうになったところを、唯先輩が助けてくれたんだ)




「も~驚いたよ~?あずにゃん後ろからいきなり走ってきて転びそうになるんだもん。気をつけなきゃあぶないよ?」




「ご、ごめんなさい。急いでたんです」




「確かにこんな遅いのも珍しいね~。どうしたの?」




ただ寝坊した、なんて話すのはなんだか恥ずかしい。私は話を逸らすため、唯先輩の顔を見る。
そこで先輩の異変に気づく。



(…んー?なんか…)



何かいつもと違う気がする。



(………あ、ヘアピンだ)



そう、いつも付けている2つの黄色いヘアピンが髪に付いてないのだ。




「先輩、いつも付けてるヘアピンどうしたんですか?」




「あ~。昨日お風呂入った時、風呂場に置いたままにしちゃってサビついちゃったんだ~」



そう言いながら先輩はいつもヘアピンが付いてる部分の前髪をちょいちょいと手櫛でとかす。
ヘアピンで止めてないせいか、先輩の前髪は目に少し掛かっていて、ミステリアスな雰囲気を出している。
そんないつもより大人っぽい先輩に、私はぽーっと見惚れてしまった。



「……………」




「どしたのあずにゃん。そんなに見つめられると恥ずかしいよぉ~」




そう言いながら先輩は私の顔を覗き込む。
少し長い前髪の隙間から隠れ見える瞳は、とても綺麗で。
私はそんな先輩にうっとりとしてしまい、先輩の声が聞こえなくなっていた。


まだ抱き受け止められていた私は、無意識に腕を先輩の背中にまわす。
すると先輩は、背中にまわしていた腕を腰まで下ろし、私の体をもっと引き寄せた。



抱き合ったままどれくらい時間が経ったのだろう。10分、5分、いやもしかしたら1分だったのかもしれない。
私はいつまでも先輩の胸に顔を埋めていた――――






キーーーーンコーーーーンカーーーンコーーーーン







「あ、遅刻だ」



「………え゛!?」



先輩の声に私はハッと我に返る。


というかこの状況は一体何事だ。
まるで恋人同士の様に抱き合っている先輩と私。


(こんな公共の場で抱き合って何してるんだ私たちは!)


急に恥ずかしくなった私は、先輩の胸の中でモゾモゾと動く。



「た、助けてくださってありがとうございました!もう大丈夫ですから、は、離れて下さい!」



「あ、そだね~」



あっさりと離される先輩の体。
先輩のぬくもりが無くなった寂しさから、私は「あっ‥」と切ない声を出してしまう。
そんな私の声に気づいた先輩は、ふっと妖麗な笑みを見せると、私の耳元に顔を近付け低い声で囁いた。


「‥続きは放課後、ね?――」










次に気がついた時には、私はいつの間にか自分の席に座っていた。
どうやってここまで辿り着いたのか、まったく覚えていない。というかもうお昼も過ぎホームルームだ。
純にお昼中の私について聞いてみたら別に普通だったと言う。
ノートも全教科執っている事から、一応勉強をする意識はあったのだと思う。さすが根は真面目な私。



(どこから記憶が飛んでるんだっけ…)



私は今日の朝からの記憶を振り返る。
朝、目覚まし時計のせいで寝坊して、遅刻しそうになって、急いで走ってたら転びそうになって、でも転ばなくて、そこには―――



「唯先輩?」



純がコソッと私に喋りかける。




「………そう!そこには唯先輩が」




唯先輩が転びそうになった私を助けてくれて、それで、それで――




(抱かれて…囁かれて…)




『続きは放課後、ね?』




「そうだった!えっ!もう放課後!?」




「こら。まだホームルーム中ですよ、中野さん」




クラスにドッと笑いが起きる。


大声を出したせいで先生に怒られてしまった。
純がこっちを見てニヤニヤと笑っている。口パクで(ばーか)というおまけつきだ。



(は、恥ずかしい…。くそぅ…純め…)



でもなんで純は唯先輩の事考えてるってわかったんだろう…。
まぁ純は後々シバくとして、私は放課後のことだけを考える。
晴れて全部思い出した私は、一刻も早く部室に向かわねばならない。
私はホームルームが早く終われという思いを込めて、机を貧乏揺すりでガタガタとさせる。




(続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き続き)




一体先輩の言った続きとは何なのか。
その時の私は“続き”という言葉に捕われていて、考える余地もなかった。












ホームルームが終わり、私は早足で両足が絡まりそうになりながら音楽室へと向かう。誤解してもらっては困るが、あくまでも早足である。私は真面目なので廊下を走ったりしないのだ。
廊下のカーブを内側擦れ擦れで曲がり、階段を二段飛ばしで上り、私はついに音楽準備室の前までたどり着く。



(はぁ、はぁ、はぁ、ここに唯先輩が…!続きが……!)




これから起きる事を想像し、私の喉はゴクリと鳴る。
いつまでもここで突っ立っているわけにはいかない。私は決心してゆっくりとドアを開ける。



「こんにちはー…あれ?」



部屋はシーンとしていて誰もいない。まだ先輩、来ていないのだろうか。
私はとりあえず鞄を置こうと思い部屋に入ると、奥の方から誰かがひょこっと顔を出した。



「あ、早かったね。あずにゃん」



「…!唯先輩…はい、急いできました…」


誰も居ないと思っていた私はいきなりの先輩の登場に驚く。それが唯先輩だったから尚更だ。



「ふふっ、額汗かいてるよ?今紅茶入れてる所だから少し座って待っててね?」



そう言われて私は額に手を当てると、急いできたためか少し汗をかいているようだった。ポケットからハンカチを取り出し汗を拭く。



「は、はい……。って…え?」




先輩の発言に耳を疑ってしまった。




(“あの”唯先輩が紅茶を!?ちゃんと淹れれるのかな…)



そんな少し失礼な事を思いながら、私は先輩に言われた通り椅子に腰掛ける。
テーブルを見ると2人分のティーカップとお菓子しか用意されていない。
疑問に思いながら私は準備をしている先輩を見る。


先輩は鼻歌を口ずさみながらヤカンを持ち、ティーポットにお湯を入れていた。
お湯を少し高い位置から注いでいるその手つきは、なんだか手馴れている感じだ。



「後2~3分で出来るからね」



そう言い先輩はティーポットに蓋をする。
紅茶は小時間蒸らして茶葉を開かせてあげないといけない。
こんな事まで知っていたなんて…私は感心する。



「あ、はい。ありがとうございます。それであの…他の皆さんの分は…?」



先輩にさっきから気になっていた事を尋ねる。
もうそろそろ来ても良い時間なのに、いっこうにドアは開く気配がしない。



「あぁ…。今日私以外部活来ないってさ」



「えっ、あ、そうなんですか…」



(なんでだろ?)と一瞬思ったが、まぁ事情があるなら仕方がない。
(今日はギター練習かな~)と考えていると、先輩が白い箱を持って近づいてきた。



「あずにゃん、ケーキどっちがいい?」



そう聞きながら先輩は箱の中からケーキを取り出し、私の目の前に2つ並べる。
今日のお菓子はモンブランとバナナチョコレートケーキの様だ。



「先輩、先に好きな方選んで下さい」



とりあえず「どうぞ」と先輩に譲る。一応目上の人でもある訳だし。
まぁ何より、先輩に好きな方を食べて欲しいという気持ちの方が強いんだけど。



「じゃあ私はこっちにしようかな」




先輩はモンブランを選ぶと、バナナチョコレートケーキを私に渡してくれた。
私は一言「ありがとうございます」と言い受け取る。



「さ、そろそろ紅茶が良い頃だよ。ティータイムにしよう。」





【いつもと違うあなた @後編】に続きます。

| 【いつもと違うあなた】 | 21:39 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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【かんちがい!】

【かんちがい!】梓→唯






今日も無事授業が終わってホームルームが終わると同時に、私はそそくさと部室に向かう。
純に色々ちょっかい掛けられそうになったけど、そこは根性で押し切った。


なんたって今日は――


~~~~~~~~~~~




「あ。明日は私と澪部活休むから」




「えっ、何か用事でもあるんですか?」



練習も終わり、ギターをケースに片付けている時に律先輩が今思い出したとでも言うようにそんな事を言った。




「なんだ律、梓に言ってなかったのか。律が職員室行くついでに伝えとくって言ってたからもう伝わってるかと思ってたのに…」




「いや~、さわちゃんと話してたら梓の事すっかり忘れてた!」




「威張るとこじゃない!!」



ボコッ



「いだ~…」




「梓、ごめんな。私もキチンと確認取るべきだったよ。律を信じた私も馬鹿だった」




「いいですよ、澪先輩は悪くないです。だって律先輩ですから」




「なんだおまえらー!私だってやる時はやるんだぞ!」




「こういう事もあるよ、りっちゃん!私の胸においで!」




「あぁ~唯だけだよ私のこと慰めてくれるのは~グスングスン」




「よーしよしよしよし。りっちゃんは頑張ったね~。よしよし」




そう言いながら唯先輩は律先輩の頭を撫でている。というか律先輩嘘泣きだろう…。




唯先輩は、誰彼構わずスキンシップしすぎだと思う…。
現に今だって律先輩と……いや、別に唯先輩が誰と仲良くしてたって私には関係ないし、というか私は唯先輩の事なんて何とも思ってないし、ただ頼りないから私がずっと見てなきゃ駄目だなってだけだし…。




『梓ちゃん、素直にね?』




「え!!」




「どうした?いきなり大きい声出して…」




「い、いや…、なんでもない、です…。……というか先輩達いつまでそれやってるんですか」




「ん~?なんだ梓、妬いてんのか?」




「えっ、そうだったの?あずにゃんごめんね~言ってくれればいいのにぃ~」





唯先輩はそう言うと手を広げながらこっちにやってくる。




(あ…抱きしめられるんだ)




そう頭で確信すると私の鼓動は速く動き始める。
何度も抱きしめられたせいで私の体から消えることのない唯先輩の甘い匂い、暖かい温もり。




「あずにゃんぎゅ~」




今日初めての抱きつきだ。
練習中は休み明けだったせいか、唯先輩はギー太にべったりであまり構ってもらえてなかった。
私だって休み中唯先輩に会えなくて寂しかったのに…。まぁ練習は進んだから良いんだけど。




「ぅ~ん、やっぱ抱きつくのはあずにゃんが一番気持ちいいよぅ~。なんというかしっこ、しっ、し、」




「しっくり、ですか?」




「そう!しっくり!しっくり~ぎゅ~♪」




「も、もうっ!苦しいです!離れて下さい!」




唯先輩の甘い匂いとか、首に当たる吐息とか、胸に当たってる、その、ゃ、やわらかさとか、色々な恥ずかしさから思ってもないことが口から出てしまう。
でも苦しいのは本当だ。唯先輩に抱きしめられると、胸がギューッと締め付けられる。




苦しいよ、先輩。
普段からわたしだけを抱きしめればいいのに。
わたしだけを見ていればいいのに。


わたしだけを好きでいてくれたら…



そしたらどんなに…





「梓、何難しい顔してんだ?眉間にシワよるぞ~?」




「ハッ」




考えすぎちゃって意識飛んでた…。
せっかく唯先輩に抱きしめられてるのに…休み中会えなかった分をいっぱい堪能しないと…。



(先輩気持ちいいなぁ…暖かい…それに良い匂い。シャンプーとはまた違った…先輩の体臭なのかな?ずっと嗅いでいたい…時間が止まればいいのに…)




『ふふっ、デレてる梓ちゃんも可愛いわ♪』




「!!?!」ビクッ!ドンッ!




天(?)から聞こえた声に思わず唯先輩を押し払ってしまった。




「いたたた…あずにゃんいきなりどうしたの~」



「なんでもないです!と言うか早く離れて下さいって言ったじゃないですか!」




「やっぱ梓は気まぐれな猫だな~。唯に抱きしめられてこーんな嬉しそうな顔してたくせに」




「なぁっ!?そんな顔してません!!それに話がそれてます!先輩方が休みってどういう事ですか?」




「あぁ、唯のペースに流されてたよ…。明日律と一緒に中学の同窓会行くんだ。
同窓会と言ってもまだ卒業してから全然月日経ってないんだけどな」




「そんな事言って~澪しゃん朝からずーっとウキウキしてるくせにぃ~」




「そっ!…まぁそうだな、楽しみだよ」




「あら、珍しく素直なことで」




「同窓会ですか~いいですね、楽しんできて下さい。…でもそしたら明日の部活どうしましょうか?」




「ぅ~ん三人だねぇ。三人で演奏するのはちょっとアレだし、明日は1日中ティータイムっていうのは…」




「駄目です!ちゃんと練習しないと!唯先輩今日だって出来てないとこ沢山ありましたよ?あんなに教えたのに…ブツブツ」




「ぅぅ…だって休み挟むと忘れちゃうんだもん…ねぇ?ギー太っ」ナデナデ




「ギー太ギー太って、ギー太のせいにしないで下さい!」




「むぅ~あずにゃんギー太に厳しいよぉ~。…もしかしてギー太にも妬きもち~?」




「!」カァッ///




「と、とにかく明日もちゃんと練習するんですからね!分かりましたか!?」




「分かったからそんな怒らないでよぅ~」





律・澪((否定しないんだ・・・))
紬(キマシ)





「じゃあ明日は自主練あんどあず練だねっ!」




「あず練て何ですか…まぁ合わせはちょっと無理かと思いますし、そうしましょうか」




「あ。明日は私もお休みするわ?」




「えっ!ムギ先輩もですか?」




「…」



(と言う事は…結果的に…その…)




『唯ちゃんと二人きりね。頑張って!梓ちゃん!』



(ゆ、唯先輩と二人きり…えへへ///ってムギ先輩!さっきから心の中読まないで下さい!
…と言うかそのためにお休みしてくれるんですか…?)




「明日は家の都合で少しパーティに顔を出さなきゃいけないのよ」




「そ、そうなんですか…」




「じゃあ明日はあずにゃんと二人かぁ♪あっ、と言うことは明日はお菓子ないのぉ?」ウルウル




「大丈夫よ唯ちゃん。紅茶とお菓子はちゃんと用意しておくから♪」




「よかったぁ~ティータイムしないと練習に力が入らないんだよぅ。ありがとームギちゃん!」ギュー




また他の人に抱きついてる。さっき私が1番って言ってたのに…また胸がざわざわしてきた。嫌だよこんな汚い気持ち…。




『大丈夫よ梓ちゃん。その気持ちはおかしくなんかないわ。それにこういう性格含めて唯ちゃんを好きになったのでしょう?』




(それはそうですけど…いや!好きっていうか、なんというかそれは違くて…と言うか早く唯先輩から離れて下さい!)




『ふふっ、明日はちゃんと素直になるのよ?』




「わかってます!!!」




「わっ!なんだ梓。何が分かってるんだ?」




「えっ、いや、その…なんでもないです」




「明日は二人だけど練習がんばろーね?あずにゃん♪」ギュー




「は…はぃ////」プシュー






~~~~~~~~~~~



そんなわけで少し長くなっちゃったけど、今日は唯先輩と二人きりなのです!
まぁ二人きりってだけでいつも通り練習なのは変わらないけど。二人きりってだけでね。
も、もしかしたら何か進展があるかもしれないよ?
二人きりだもん…い、いや、別に期待してるわけじゃないけど、
で、でももしかしたらあんなことが起こっちゃたり、こんな展開になってしまう事も…えへ。





(ふふふぅ…ぅふふぇへへへへ//////)





「ぇへへへぇッゲホッゲホッ」




ハッ!トリップしすぎて頭の中がピンク色になってしまっていた。急がないと先輩を待たせてしまう!
先輩のクラスは5限が休みだと言っていた。1年生より終わるのが早いのだ。



私は階段をそーっとそーっと音を立てないように上がっていく。
なんでかって?それは…




「こんにちはーっと…」




静かに音楽室のドアを開くとそこには真面目に練習をしている唯先輩が
…いるわけなく、先輩は案の定ソファーに寝っ転がって眠っていた。




(やっぱり…ふふっお見通しなんですよ!唯先輩が1人で1時間も退屈しないで待てるわけないです)




私は足音を立てないよう注意しながら床に鞄とギターを床に起き、ソファーに近づき膝立ちになりそっと先輩の寝顔を拝見する。




「ぅみゅ…すぅーすぅー」




(唯先輩の寝顔可愛い…)




いつも私のことを可愛い可愛いと言うけど、私から言わせてみると唯先輩の方が断然可愛いと思う。いや、断然可愛いんだ。異論は認めない。




(あ…口の横に何かついてる)




よく見るとクリームの様な白い物がついていた。
テーブルの上にはケーキと紅茶が並んである。
きっと私のことが待てなくて先に少しつまみ食いでもしたんだろう。




(まったく唯先輩は…私が来るまで待ってて下さいよ)




私は先輩の口を拭くためにティッシュを取りに行こうと思い立ち上がろうとしたが、それは叶わなかった。
先輩が私のシャツをギュッと握っているのだ。




「…先輩?」




「すぅ…すぅ…」




どうやら無意識の動作らしい。赤ん坊ですかこの人は…。




「もう…これじゃ取りに行けないじゃないですか…」




私は諦めて再び膝立ちになり唯先輩の方を向く。そうすると唯先輩の寝顔が少し微笑んだ気がした。




「ふふっ可愛い…」




昨日はあんなに明日は練習ですって言ったくせに、なんだか今日は唯先輩とゆっくり過ごしたい気分だ。
こんな幸せそうな寝顔を見たら起こしたくないと誰もが思うだろう。最近私は唯先輩に甘い気がする。



唯先輩どんな夢を見てるのかな…。
夢の中でも私と一緒ならいいのに…。




「大好きだよ」




「…えっ!?」



私は思わず唯先輩の声に、吐息に、耳を集中させる。
先輩は夢の中なんだから私に向けて言われたわけでもないのに、胸がドキドキしてきた。
も、もしかして唯先輩起きて…




「ゅ、ゅ、ゅいしぇんぱ」




「むにゅむにゅ…ぷしゅぅ…」




「…なんだ寝言か」




私の気持ちは一気に落胆する。




(まぁ唯先輩に期待はしてませんよ…。私が頑張らないと!)フンス!



「…」



思わず唯先輩の真似をしてしまった。
まぁ私がリードしないと唯先輩はなーにもしないんだから…。
今だって後輩ほっぽいて寝こけてるわけだし。




(そんな無防備だと襲われちゃいますよー。まぁ私以外は許しませんが)





口の横のクリームを取るのは諦めて唯先輩の寝顔を眺めていると、
先輩の口がむにゃむにゃ動いて僅かながら何か言っていることに気がついた。




(先輩なんか幸せそう…どんな夢見てるんだろう)




私は何を喋っているのか知りたくて先輩の口に自分の耳を近づける。





「あずにゃ…、あんっ…、っぱい…おいし…」




「!!??」




(なっ、なっ、私?というか「っぱい」…っておっぱい!?私のおっぱいがおいしい!!??)




「なんて夢見てるんですかー!!!」シャー




「ふえっ!?なにごと!」




「何事じゃありません!一体どんな夢見てたんですか!」




「えっどんなって…ぅ~ん夢だったのか~勿体無いよぅ…」




「も、勿体無いって…そんなに私の…ブツブツ」




「あ!あずにゃんも一緒だったよ~」




「当たり前です!私以外とそんな事するのも考えるのも許しません!」クワッ




「ひっ、あずにゃんどうしたの?私が眠ってたから怒ってるの~?」




「…怒ってませんよ。ただ唯先輩が…」




「私が?」



「その…えーと…、…だから!」




「あぁ!あずにゃん食べたくなっちゃったんだね?いいよ~もうこんな時間だし」




「えっ…確かにもう下校時間ですね…と言うか、本当にいいんですか…?」




「もちろんだよぅ!」




「じ、じゃあ学校ではもう無理ですし、わ、私の家にでも行きますか?今日は偶然親も居ないんで…」




「えっ?あずにゃんの家にあるの~?ん~親が居ないのも関係あるの?あっ、さてはあずにゃん独り占めしようとしてたんだねぇ~?」




「えっ?あるって当たり前じゃないですか。(私自身なんだし)私が独り占め…?って…あれ?」




「あの、すみません唯先輩。唯先輩が見た夢って…?」




「ん?たい焼き食べる夢だけど?」




「 」




「しっぽまであんこいっぱいで美味しかったんだよ~」




「 」




「でもあずにゃん家にたい焼き買いだめしてるの~?さすが猫ちゃんだねぇ~♪」




「…ま」




「ま?」




「まぎわらしいんですよー!!!」





大好きなたい焼きを今日ほど食べたくなくなったのは生涯生まれて初めてでした。








fin♪





初めまして管理人のJASこです。読み方はそのまま「じゃすこ」です。由来は某スーパーではありませんのでw
この作品は人生初めて書いたSSです。後先考えずに唯梓LOVE!!!って気持ちだけで衝動書きしましたw
読み返すと色々とひどいですね、ごめんなさい。
確認するたびに誤字脱字が見つかるので、未だにありまくりだと思います。
見つけた方は指摘などして下さると嬉しいです。

| 【かんちがい!】 | 20:33 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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